私は約20年近くフランス料理人をやってきました。ちょうどバブルの全盛期でフォアグラ・キャビア・トリュフみたいな高級食材が頻繁に使われていた時代なんですが、それに違和感を覚えていました。
例えばフォアグラってどうやって作られているんだろうと調べたら、ガチョウにトウモロコシを無理矢理食べさせ肝臓を肥大させている、いわば脂肪肝のようなもの。それをグルメと言っていることに納得できなかったんです。その頃、自然食に興味を持ち出して、少し経ってから東京でマクロビオティックや自然食のお店をはじめたんです。
でも、3.11の震災以降に、東京を離れようと思ったんですね。もう少し安心できる田舎に移ってレストランをやりたいなって。そんな時にたまたまこのお店が空いていたんです。場所の候補はいくつかあったんですが、久留米は農産物が豊富で、移住して無農薬野菜を作っている若い人たちもいると知って、自分がお店をやるのと、何か合うものがあるのかなって思いました。
また、久留米はお医者さんが多いので、現代医療の食事法の中で何かコラボしてやれたら面白いなという気持ちもありましたね。
仕事で月に一回程、東京や名古屋などの都会に行くんですが、その時に改めて感じる久留米の良さは、とにかく空気がとても綺麗で静かなところ。
人が生活していくには、小鳥の声で目が覚めるようなこのくらいゆっくりしている方が、リズムが掴めるかなって思います。
残りの人生、どこにウエイトを置いて暮らしていくかと考えた時に、こういう静かな地を選びました。
久留米の中でも田舎を選んだので、車がないと生活がしづらいことですかね。東京では山手線も2分に1本きてましたから不自由はなかったんです。でもこちらに来てから、免許をとって車を買いました。
当店は動物性の食材は一切使っていないんですよ。野菜と穀物が中心のベジタリアンのお店なんです。久留米は自然が豊かで農産物が盛ん。田主丸の方に行けばフルーツも沢山作っているので、食材が豊富なことは魅力だと思います。
それから、生活の物価がすごく安いこと。そういうところも含めて住みやすい街だと思います。あとは昔ながらの伝統工芸を守っている点も素晴らしいですね。
フランス料理から自然食に興味を持ち出して独立を考えた時に、卵や乳製品のアレルギーをお持ちのお子さんでも食べられるケーキも作りたいと思ったんです。今はそういうお子さんを持ったお母さん達から、ここのケーキなら安心して食べられると喜んで頂いています。
また、以前から発酵食品に関心があり、酒造なんかと同じで古民家に住みついている常在菌を利用してお味噌や梅干しなどお店で使う素材を全部手作りしたいと思っていました。古民家を選んだ理由の大きな一つですね。
例えば糖尿病の方には玄米菜食の食事がすごくいいので、お医者さんとかとコラボしてやれたら面白いと思っています。あとは、料理教室を大阪・名古屋・福岡・東京でやっているんですが、それを海外で実現とか。
逆に一年に2回くらい団体で来られる韓国の方を対象に料理教室をやることがあるんですが、アジア近辺とかアメリカ・ヨーロッパは人口が多いので、久留米絣などの伝統工芸品を伝えられたらいいなと思いますね。
移住を考えている方には色んなパターンがあると思うんですが、リタイヤして残りの人生を久留米で過ごすのはいいと思います。ただ、仕事が確立していないと生活していくのは大変かなって。移住してきてから仕事を探すのは苦労すると思うので、その前に仕事を確保していた方がいいですよ。
平田優さん
東京のフランス料理店で20年に渡り料理長を務めた後、マクロビオティックの道へ。健康に良い食事を提供したい想いから、農産物が豊富な久留米の田舎の地に移住し、現在の古民家レストランを出店。広告は一切しない隠れ家的レストランとしてファンを増やしている。